相続と預貯金の払戻についてのQ&A
遺産分割前に被相続人の預貯金の払戻を行うことはできないのでしょうか?
かつては、相続人全員が同意しなければ、被相続人の預貯金の払戻を行うことはできませんでした。
このため、相続人のうちの1人でも、預貯金の払戻に反対している場合には、遺産分割が成立するまでの間は、被相続人の預貯金の払戻を行うことはできませんでした。
ところが、近時の相続法改正により、一定の場合には、相続人全員の同意がなかったとしても、遺産分割前の預貯金の払戻を行うことができるようになりました。
このため、一定の場合には、被相続人の預貯金をもって、相続人の当面の生活資金や相続債務の弁済、相続税の納付に充てることができるようになりました。
裁判をせずに預貯金の払戻はできますか?
改正相続法では、一定の金額までであれば、裁判をせずに預貯金の払戻を行うことができます。
具体的には、各預貯金口座について、相続時の残高の1/3までは、払戻をすることができます。
ただし、同一の金融機関からの払戻は、150万円が上限になります。
裁判をすれば、さらに預貯金の払戻を行うことができるのでしょうか?
裁判をすれば、相続時の残高の1/3、同一の金融機関における150万円の上限を超えて、預貯金の払戻ができるようになります。
具体的には、家庭裁判所において、仮分割の仮処分の申立を行い、これが認められれば、上記の上限を超える金額の払戻が可能になります。
ただし、仮分割の仮処分の申立を行うにあたっては、以下の要件を満たす必要があります。
・遺産分割調停、遺産分割審判の申立がなされていること
・相続債務の弁済、相続人の生活費の支払等、預貯金の払戻を行う必要があること
・他の共同相続人の利益を害しないこと
他の共同相続人の利益を害しないこととの要件があることから、基本的には、払戻ができるのは、具体的相続分までであると考えられます。
もっとも、すでに生前贈与を受けている相続人からの払戻については、特別受益の持戻しがなされた後の金額に限り、払戻が認められるに過ぎないと考えられます。
このため、多額の生前贈与を受けた相続人については、計算上、具体的相続分が0円になることもあり得るため、仮分割の仮処分による払戻が認められないこともあり得ると思います。
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