相続における預貯金の名義変更と注意点
1 被相続人が亡くなると、被相続人の口座は凍結される
被相続人の方が亡くなり、銀行がそのことを知った際には、被相続人名義の預貯金口座は凍結され、預貯金の入金・出金はできなくなります。
そのため、預貯金を相続した方は、様々な書類を銀行に提出し、名義変更や解約の手続きを行う必要があります。
他方で、相続人の方が、被相続人名義の口座のキャッシュカードを持っており、暗証番号を知っている場合には、銀行が被相続人の死亡を知るまでの間は、事実上、預貯金の引き出しは可能ではあります。
しかし、被相続人の預貯金の引き出しに当たっては、以下のようなリスクがあるため、被相続人の口座からの出金は、正式な手続きを経るまでは避けるのが望ましいでしょう。
2 相続放棄ができなくなるリスク
被相続人の方に負債がある場合には、相続放棄をしたほうが、相続人の方にとっては良い場合もあります。
しかし、相続人が相続財産の全部または一部を処分した時には、相続放棄をすることができなくなる可能性があります(法定単純承認、民法921条1号)。
被相続人の預貯金を引き出すことは、この法廷単純承認事由に該当する可能性があります。
そのため、被相続人の預貯金を引き出すことができるからと言って引き出してしまうと、後から被相続人の方に大きな負債があったということが明らかになった場合に、相続放棄ができず、負債を相続せざるを得なくなった、ということになりかねません。
被相続人の方の預貯金の引き出しには、このようなリスクがあるということを、記憶にとどめていいただければと思います。
3 遺産分割の際にトラブルになるリスク
相続人が複数いる場合には、遺言がある場合には基本的に遺言に従って、遺言がなければまずは相続人間で協議をして、遺産の分割を行うことになります。
預貯金についても当然遺産分割の対象となるため、被相続人が亡くなった際には、一旦相続人の共有財産となります。
しかし、もし被相続人が亡くなった日以降に被相続人の口座から出金があれば、他の相続人からすると、何に使ったのかと当然疑問に思います。
また、入出金履歴は銀行から取り寄せることができますので、出金があれる場合にはそのことが証拠上明らかとなってしまいます。
当然、相続人間で合意の上で出金している場合や、合理的な理由がある出金の場合もあるかとは思いますが、使途がわからないお金があると、遺産分割の際に大きくもめる原因となってしまいます。
そのため、被相続人の方の口座からの出金は控えるか、出金をするにしても、何に使ったのかという証拠となる領収書等を残しておくようにしましょう。
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